西俊輔の「毎日楽しく」

2015年6月号 Vol.118

先月の28日、俳優の今井雅之さんが亡くなりました。54歳という早すぎる死でした。
以前、この「毎日楽しく」で今井さんの舞台を観てきたという話を書いたことがありますが、この5月は今井さんのライフワークである「THE WINS OF GOD(ザ・ウィンズ・オブ・ゴッド)」という舞台の全国公演の最中で、私自身は2度目となるこの舞台をちょうど観てきた直後の悲報でした。

今井さんご本人は今回の病気のため舞台に立つことはできず、私が観たのも代役を立てての舞台でしたが、今井さんの思いを引き継いだ役者さんたちによる今回のウィンズ・オブ・ゴッドも素晴らしい舞台でした。

物語は、太平洋戦争末期にタイムスリップしてしまう2人の漫才コンビの話で、平和な現代に生きていた2人がいきなり神風特攻隊員として敵艦への特攻を命じられ、死を目の当たりにして、誰かのために自分の命を投げ出すことや生きるということについて葛藤する姿を描いたものです。

初演は今から27年も前の1988年で、それ以来国内外で上演され続けて数々の芸術賞を受賞。映画化もされ、アメリカの映画祭では外国映画賞も受賞している作品なんだそうです。

物語の中で今井さん演じる主人公は特攻で命を投げ出すことの不条理さを嘆き、生き続けることの重要性をうったえます。死ぬことを運命づけられている特攻隊員が生き続けようとする姿と、がんとの闘いの中でなんとか生き続けようと頑張る今井さんご本人の姿とがオーバーラップして、以前観たときよりも感慨深い今回の観劇でした。

戦争の悲惨さを表現することで反戦を訴えているところや輪廻転生を扱ったところなどは、今井さんの「手をつないでかえろうよ」という別の舞台(これがまたいい舞台なんです)の物語とも通じるところがあり、いずれの物語でも主演のみならず原作と脚本も手掛けた今井さんの強い思いが感じられました。

ウィンズ・オブ・ゴッドで主人公の特攻隊員は生き続けることの大切さをうったえていますが、その言葉をそっくりそのまま今井さんご本人に返したいと思った方はたくさんいたことでしょう。
病気ですからやむをえませんが、がんは生活習慣病と言われることもあるそうです。今井さんにはもっと生きて素晴らしい舞台や映画を見せてほしかったですし、人は自分のためではなく誰かのためにふだんから自身の体を大切にすべきだということを強く感じました。

一覧に戻る