西俊輔の「毎日楽しく」

2017年6月号(Vol.142)

 「毎日楽しく」の3月号で、いわゆるフェイクニュース(偽のニュース)について書きました。単なるデマを多くの人達が信じてしまうと、今回のアメリカ大統領選のような結果が出てしまうこともあるという内容でした。ただ、このとき書いたのはインターネット上にあふれる個人を含めた誰でも発信できる情報のことで、新聞や書籍など、情報が発信されるまでに多くの人の目を通して検証される情報を想定してませんでした。でももし、そうした紙媒体の情報ですら、フェイクニュースがあふれているとしたら、と思わせる本を最近読みました。ひとつは日本の明治維新に関する本で、もうひとつは第二次世界大戦における日本の戦争責任に関する本です。

 明治維新について、多くの日本人が持つイメージというのは私を含めてたぶん、それまで260年も続いた封建社会を終わらせ、欧米のような近代社会が始まるきっかけとなった出来事というものでしょう。薩摩藩や長州藩が中心となった官軍が日本の近代化を目指したのに対して、賊軍となった徳川幕府とそれを支援する藩はこうした近代化に抵抗した勢力というイメージもあるかもしれません。ところが、優秀な官僚を数多く抱えていた徳川幕府は、幕末のころはすでに官軍と同様の近代化を目指していて、仮に明治維新が無く、そのまま徳川政権が続いていたとしても現在のような日本になっていたという見方もあるんだそうです。それがなぜ、明治維新が良い出来事だったというイメージを持つ日本人が多いかといえば、それは戦争の勝者である官軍の側が歴史を書いたからだというのがこの本の主張です。同様に、第二次世界大戦では日本がアメリカの真珠湾に卑怯な奇襲攻撃をかけてアメリカに戦争をしかけ、中国や朝鮮などを侵略し、そこで虐殺を含む現地の人達に対するひどい行いをした、というのが一般に言われていることで、私を含めそのように信じている日本人は多いと思いますが、それもまた勝者である側が一方的に書いた歴史であって、もしも別の見方もあるとしたら・・・。

 歴史はあまりにも多くの個別的な事象が積み重なってできているため、後世から見ても全体として何が正しくて何が正しくなかったかという判断を簡単にはできず、ましてフェイクニュースのようなものと一緒に論じることはできませんが、多くの人の判断に影響する重要な事実が意図的に隠されているとすれば、そうした歴史はもしかしたら、フェイクニュースのようなものとみることもできるかもしれませんね。

 

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