2016年6月号(Vol.130)
セブン&アイ・ホールディングスの会長だった鈴木敏文さんが退任されました。日本に初めてコンビニエンスストアという業態を根付かせ、流通業の帝王、あるいは流通最後のカリスマと言われた人で、私も尊敬する経営者の一人でした。
鈴木さんといえば、日本を代表する経営者として必ず名前が挙がる方でしたが、今回の退任をめぐるドタバタ(と言ってもいいと思いますが)は、そんな偉大な経営者の最後としてはなんとも寂しいものでした。
もともとイトーヨーカドーというスーパーが母体だったセブン&アイはその後、鈴木さんがセブンイレブンを始め、現在は西武・そごうというデパートやデニーズなどのファミリーレストラン、赤ちゃん本舗など30以上の会社からなるグループとなり、売上総額は6兆円を超えるんだそうです。
ただ、好調なセブンイレブン以外はどこも苦戦しているとも言われ、今後、グループ全体のかじ取りをどうしていくかという最中で、鈴木さんの体調が悪かったわけでも、またもともと予定されていた退任というわけでもなく、ご本人が望まない形での退任となってしまったようです。
現在のセブン&アイグループをここまでにしたのは鈴木さんの功績によるところが大きいのは間違いありませんが、ただ鈴木さんは創業者ではなく、伊藤雅俊さんが創業したイトーヨーカドーに社員として入社した方でしたから、もしも鈴木さんが創業者だったら、今回はまた別の展開になっていたかもしれません。
鈴木さんといえば、仮説を立てて検証するという科学的な経営手法と多くの名言を残していることでも有名です。たとえば、「過去の成功体験を捨てろ」というものです。過去に成功した体験が大きければ大きいほど、その体験にしがみついて新しいことにチャレンジできなくなる、あるいは成功したときのやり方にこだわってしまうことを戒めたものです。
また、「お客様の立場に立て」という言葉も有名です。出版社からイトーヨーカドーに転職した鈴木さんは流通業がまったくの素人で、でも、素人だからこそ、「お客様のために」やっているという売る側の思い込みを捨てて、自らが「お客様の立場に立って」、どういうものが欲しいのかを考えることができるということをよく言っていたそうです。
そして、「時代の変化に対応しろ」という言葉も有名でした。ビジネスは常に変化する環境に適応していかないと生き残っていけないということですが、今回の鈴木さんの退任がそうした時代の変化によるものだとしたら、鈴木さんにとってはなんとも皮肉な結果となってしまいました。