西俊輔の「毎日楽しく」

2014年04月号 Vol.104

先日、弊社のお客様からのご紹介で、ある舞台を見てきました。テレビや映画で活躍されている今井雅之さんという俳優さんが原作と主演を務める舞台で、コワモテの役柄のイメージが強い今井さんからは想像しづらい、なんとも切なく、人生について考えさせられるすばらしい舞台でした。

その中の印象に残った登場人物のセリフで、人間と蟻(アリ)とどっちがえらいか?というものがあります。またそれに対する劇中での回答は、どちらがえらいということはない、というものです。「えらい」をどう定義するかにもよりますが、普通に考えれば人間のほうがえらい、ということになりそうですが、生き物の命の重さには本来差はないはず、という考え方に私はとても共感しました。

この地球上では食物連鎖というものがあって、植物を食べる草食動物がいて、その草食動物を食べる肉食動物がいて、それぞれがお互いを必要とする絶妙なバランスのもとで成り立っています。

個々の個体で考えると、蟻のような小さな生物は人間からみるといかにも軽そうな命に思えますが、蟻という生物自体がもしもいなくなってしまったら、おそらくどこかで食物連鎖が狂い、人間の生活にも大きな影響が出てきて、ひょっとすると、人間だって生きていくことができなくなるかもしれません。そういう意味では、人間のほうがえらくて(命が重くて)、蟻のほうがえらくない(命が軽い)ということは言えないはずです。

この舞台で今井さんが演じる主人公は軽度の知的障害を持つ人物なんですが、特に子供時代には、こうした障害を持つ子供は差別やいじめを受けがちで、そこに悩みを持つ主人公に対して、人間と蟻だって変わらないのに、まして知的障害の有無だけで、同じ人間の命に差があるわけがなく、さらにいうと、人種や宗教の違いで、戦争まで起きてしまうことのナンセンスさを指摘していることに、あらためて考えさせられてしまいました。

昨今の遺伝子操作や万能細胞に係る科学技術の発達には目をみはるものがありますが、人間がどんなに賢くなっても、まったくゼロの状態からは蟻のような生物すら作り出すことはきっとできない、という登場人物のセリフに、人間の驕りを感じたのは私だけではなかったと思います。

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