貧困の解消が戦争や犯罪を無くす
2年ほど前の2019年12月、アフガニスタンで日本人医師の中村哲さんが武装集団に銃撃されて亡くなるという事件がありました。
中村さんは、大国の利害や国際情勢に翻弄されるアフガニスタンの人たちを助けようと、当初は現地に診療所を開き、医療行為を通じて現地の人たちを支援していたそうですが、干ばつによる水不足や汚れた水による下痢などで多くの子供たちが命を落とすのをみて、水路を1本作ってこうした状況を改善すれば、医者を100人連れてくるよりもいい、と考え、用水路などのインフラ整備に力を注ぐようになったそうです。
2001年に起こったアメリカ同時多発テロをきっかけに、アメリカはそれ以降、武力によるテロとの戦いを続けるようになり、テロ組織の温床となっていたアフガニスタンはアメリカなどによる武力攻撃の対象となります。中村さん自身もこうしたアメリカなどによる空爆で命の危険にさらされることもあったそうですが、アフガニスタンの問題は政治や軍事の問題ではなくパンと水の問題なんだから、武力ではテロを断ち切れないというのが中村さんの考えだったようです。
貧困があるからアフガニスタンの人たちは生活のためにテロ組織の傭兵になったり、あるいはアメリカ軍の傭兵になったりするのであって、原因となってる貧困を解消しない限り問題は解決しないという言葉は、現地の男性の次のような発言からも説得力を感じます。
「仕事がないからお金のために戦争へ行くんで、おなかいっぱいになれば誰も戦争などには行かない」。
今から2000年ほど前に武力で地中海一帯を制圧したローマ帝国によって、その後200年間大きな戦争が無かった平和な時代を「パックス・ロマーナ(ローマの平和)」と呼んだことにちなみ、第二次世界大戦後の世界は「パックス・アメリカーナ」とも言われましたが、その考え方はアフガニスタンの状況をみれば悪い冗談のようにも聞こえます。
でもこの「パックス・アメリカーナ」も終焉を迎え、最近、世界ではまた大きな戦争が近づきつつあると一部では言われるようになってます。その背景には、持てる者と持たざる者との二極化によって格差が広がり、特に貧困層で多くの人の心がすさんでしまうことも原因としてあるのかもしれません。
最近、アメリカやヨーロッパの一部で見られるアジア人を標的にした暴力は新型コロナウィルスが直接の原因ではありますが、その根底には人種差別と同時に、貧困を原因とする心のすさみがあるとも言われています。戦争や犯罪の温床となる極度の貧困を世界から無くすことができれば、世界はもっと良くなると思うんですが、これは理想論に過ぎないんでしょうかね?