「食わせる寿司屋」を知っていますか
2023年10月17日
「この近くに食わせる寿司屋がある。そこへ行こう」──。これはとある映画に出てくるセリフである。私はこの言い回しを、はじめて耳にした30年以上前からずっと気に入っている。
「うまい寿司屋」ではなくて「食わせる寿司屋」。なんとも小洒落ていて、なおかつどんな寿司屋なのかを想像させるのに充分で過不足のない、言い得て妙とはまさにこのセリフのことであろう。
映画やテレビドラマの面白さの決め手は、役者の演技力やストーリー展開、音楽や演出力など複数の要素の総合点だと考えられるが、果たしてそれだけだろうか。実はそれらよりもセリフの妙こそがもっとも重要な要素ではないかと私は考える。たとえ平凡なストーリーでも、キラリと光るセリフが散りばめられているものは傑作になりうる。私はそんな、セリフの隅々まで神経を行き渡らせた脚本家が書いたドラマを渇望している。