八月の銀の雪
2025年07月30日
「八月の銀の雪」は、直木賞作家の伊与原 新の短編小説です。
就活連敗中の理系大生、堀川はコンビニで無愛想で手際が悪い外国人の女性店員から、店内での落とし物について聞かれます。
その外国人店員が、堀川が座っていたイートインスペースに大切な紙を置き忘れたらしいのです。家に帰ってから、コンビニで一緒にいた堀川の同級生がメモ用紙として使っていた紙がカバンの底にあったのを見つけ、それが探していた紙の内の一枚だとわかります。
それは何かの論文のようでした。その紙を届けに行った堀川は、そのコンビニ店員の名前はグエンといい、日本の大学院で地震学を研究しているベトナムからの有望な留学生だと知ります。
堀川が見つけたのは、グエンの恩師の論文のコピーでした。グエンは、就活で疲れ果てて、やる気を失っている堀川に熱く地球物理学の話しをします。 「地球の中には内核というものがあります。もう一つの星があるようなものです。月の大きさの三分の二くらい。もし、光が届けば、銀色に輝いて見える星。この星の表面は高さ百メートルもある銀色の鉄の森です。正体は樹枝状に伸びた鉄の結晶です。その森には銀色の雪が降っています。これも鉄の結晶の小さなかけらです。それが内核の表面に積り、固まり、少しずつ銀の星が大きくなります。私、研究をもっと頑張って銀の雪の降る音を聴きたい。」
-自分の心の中には核のようなものはあるだろうか?それは少しずつ大きくなっているだろうか?そして、その核に降る銀の雪の音を聴くことはあるだろうか?-そんなことを堀川は思います。
作者の伊与原 新は、地球惑星物理学を専攻し、大学で教えていたこともあり、その知見をもとに書かれていることを考えると、グエンの話しにはリアリティが感じられます。札幌でも、コンビニで外国人店員を見かけることがあります。先日、買い物をした時は、東南アジア系の女性の店員さんでした。この人はどんな思いを持ってレジに立っているのかなあと、つい、グエンに重ねて見てしまいました。
ふたば税理士法人 T.M.