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卵の殻が入らない方法を見つけたときの衝撃たるや

2022年07月19日

朝6時半。

炊飯器からピーピーと電子音が鳴る。ご飯が炊けたことを知らせるブザーだ。蓋を開けると、ふわっと水蒸気が立ち上がり炊きたての香りが嗅覚を刺激する。水に濡らしたしゃもじを釜に差し入れ、まんべんなく下から上へとかき混ぜる。この行為の意味は実はいまだによくわかっていない。母親がそうやっていたから私も見よう見まねでやっているだけだ。おそらく混ぜないとおいしくないのだろう。それになぜか混ぜたい衝動にも駆られる。だから混ぜる。一通り混ぜ終わると、茶碗にひとすくい、ご飯を盛る。

冷蔵庫から卵をひとつ取り出す。そういえば卵の消費期限って本当は2ヶ月くらいあると何かの雑誌で読んだ。だからといってたとえば1ヶ月も寝かした生卵を食べる勇気はさすがにないけど。そんなことを思いながら、茶碗の端でコツコツと叩いてヒビを入れ、ご飯の上にかける。卵のお供は、めんつゆ。普通は醤油をかけるのだろうけど、めんつゆはダシが効いていて、実に卵とよく合う。

さあ、ここから先は戦いだ。茶碗に箸を突き立て烈火の如く混ぜる。これでもかというくらい憎しみを込めて混ぜる。かき混ぜる腕に乳酸が溜まってもうこれ以上は無理だと限界を感じるまでかき混ぜる。私は何と戦っているのか。傍から見たら、たいそう滑稽な姿だと思うが誰もいないから気にしない。そうして一戦交えたあとのごはんを、口に運ぶ。

ひと噛みするやいなや、じゃりっと口の中で嫌な感触がする。殻だ。どうも卵を割るのが下手くそな私。オムライスを作るときも卵焼きを焼くときも、そこそこの割合で殻が入ってくる。その確率たるやイチローの生涯打率といい勝負だ。

ところが、である。ある朝、殻を入れない方法を偶然にも見つけてしまった。その方法なら百発百中、絶対に殻が入らない。この方法を見つけたときは、落ちた鱗を目に戻したのにまた勢いよく落ちて粉々に砕け散るくらいの衝撃だった。

そもそもなぜ殻が入るのかというと、黄身もしくは白身が殻から流れ落ちるときにヒビによってできた細かく脆い殻も剥がれ落ちて一緒に流れてしまうからである。ナイアガラの滝の崖っぷちの脆い岩が水の勢いで剥がれ、豪水と一緒に流れ落ちるアレである。

ではどうすればいいかというと、実に簡単なことだった。ヒビを入れたところを割るのではなく、その真裏を割ればよかったのだ。ヒビを入れたあと両手でクルッと百八十度回転させてヒビの入っていない面を下にする。そして左右にパカッと割る。真上のヒビが実にうまく働いて、気持ちいいほどきれいに割れるのだ。これで絶対に殻が入らない。ヒビのないきれいな断面からは殻が剥がれ落ちようがないからである。

こんな単純なこと、気づくのに四十年と幾年が過ぎていた。こんな単純なことだからこそ、その解決法をみずから見つけたときの感動は何にも代えがたい。これで二度と卵の殻を食べることもあるまい。やったぜ。〈h〉

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