土に贖う(あがなう)
2023年07月27日
先日読んだ河﨑秋子の「土に贖う」と
いう本を紹介したいと思います。
この本には表題の「土に贖う」のほか
6編の短編が収められていますが、い
ずれもかつて北海道に興り衰退して行
った産業とそれに関わった人々の人生
が描かれています。
その一つ「蛹(さなぎ)の家」は今で
は見ることがなくなった北海道の養蚕
業の話です。
明治30年代、北海道に自生していた
野生の桑に目を付けた開拓民が養蚕に
挑戦し、一時は全国的なブームにも乗
って、北海道を代表する産業の一つに
なっていました。主人公のヒトエも養
蚕業に真摯に取組む父親を誇らしく思
い、平穏な日常はいつまでも続くよう
に思っていました。しかし、この北海
道の養蚕業も世界経済の波(世界的な
不況や化学繊維の普及など)を受ける
こととなり、ヒトエの父は起死回生を
図って、東北から良質な桑の苗木を大
量に買入れます。ところが、北海道の
厳しい冬の冷え込みにより、苗木はこ
とごとく枯れてしまいました。ヒトエ
はある日、縁側でこちらに背を向けた
父親の周りを無数の蚕蛾(蚕の成虫)
が乱舞しているのを目撃します。しか
し、考えてみると、人間の手で改良さ
れた蚕蛾は羽に比して胴体が非常に大
きく、自力では飛べないことに気が付
きます。よく見ると父親はあれほど大
切にしていた蚕を餌としてカラスやヒ
ヨドリに与えていて、その引きちぎら
れた羽がちょうど蚕蛾が飛んでいるよ
うに見えたのでした。ヒトエはそれを
見て、家業が破綻したことを知るので
す。
このほか、道東のミンクの養殖、北見
のハッカ、江別のレンガにまつわる短
編なども興味深いものでした。ちなみ
に札幌の「桑園」という地名も当時そ
こに一面の桑畑があり、養蚕業が営ま
れていたことを偲ばせるものというこ
とです。