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満つる月の如しー仏師・定朝

2023年09月19日

10円玉の裏側の図案になっているのが、平等院鳳凰堂だということをご存知の方もいると思いますが、この平等院は京都府の宇治市にあって、私が大阪勤務をしていた頃、もう30年以上前になりますが、一度拝観したことがあります。その本尊が阿弥陀如来坐像ですが、この仏像は、藤原道長に絶大な信頼を受けていた仏師・定朝が作ったものです。今回は、この定朝を描いた「満つる月の如し-仏師・定朝」という本を紹介します。定朝は平安時代の仏師ですが、作者の澤田瞳子は平板な歴史資料から人間定朝を生き生きと浮かび上がらせています。

小説の中の定朝は若いころからその才能は自他ともに認めるものではあったのですが、自分がいかに素晴らしい仏像を作ろうとも、世の中では飢きん、疫病、災害、貧困はなくならないのではないか、自分は何のために仏像を作っているのかと悩みます。それがある比叡山の小姓の「そんなことで悩むのは思い上がりだ。仏師はそれを求める者がある限り、その人たちのために仏像を作ればいいのだ。」ということばで気持ちに一つの区切りをつけて、仏像作りに精進していきます。円熟期のころには、ある宮廷に仕える女官が、自分の不幸な境遇に自暴自棄になった恋の相手への心配や思いやり、報われない恋の辛さを持ちながら非業の死を遂げるのですが、その女官を悼む気持ちよりもその死に顔に仏像の顔を彫るヒントを見つけようとしている自分に気が付くということがあって、また悩みながらも「尊容満つる月の如し」といわれる仏像を作り続け、仏師としては異例の法橋(僧侶として高位の称号)にまでなっていきます。仏師としての悩みからは完全にふっ切れたとこるまでは描かれていませんが、約千年前に懸命に生きた一人の仏師がよく描かれていたと思いました。この本を読んだ後に平等院や阿弥陀如来像を見たらまた感慨も深いだろうなあと思いました。

 

 

 

 

 

 

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