花が咲くとき
2025年10月23日
「花が咲くとき」は、札幌在住の作家・乾ルカの小説です。
札幌の小学6年生の瀬川大介は、両親から成績のことでしかられてばかり。ストレスがたまると隣に住む謎の老人・佐藤北海の庭にある小さな植木の花芽をこっそりナイフで削ぎ取ってしまうことで、うさを晴らしていました。夏休みのある日、その木に一輪だけ真っ白い花が咲きます。それを見た北海は、すぐに軽トラックに荷物を積み込み、旅行に出かけようとします。大介は、密かにその軽トラックの幌をかけた荷台にもぐり込みます。大介には、北海から黒っぽいオーラが出ているような気がして、「これは面白いことが起こりそうだ。」と思ったのです。北海は、苫小牧港でフェリーに乗り換えますが、大介も見つからないようにフェリーに乗ります。途中で、北海が心臓の発作を起こし、大介の機転で事なきを得ますが、大介が北海をつけて来たのがバレてしまいます。北海は、何度も手紙をもらいながら、返事を書かず、何年も会っていなかった古い知り合いの所に行こうとしているようでした。そこから二人の旅が始まりますが、途中で乗せてもらったトラックの運転手、ストリッパー、全国をまわっている包丁研ぎ屋や刀鍛冶など様々な人達に会って話を聞きながら、大介は、少しずつ成長していきます。「働く意味」や「弱くても生きていける道」…。昔、戦争があって、佐藤北海は、若い頃、シベリアに抑留され、大変な経験をしていたことも知ります。これから会いに行こうとしている人もシベリアの同じ収容所にいたらしいのです。面白半分でついて来た大介でしたが、いつの間にか二人の間で心の交流が生まれます。「何があっても、この人の味方でいよう。」と大介は思います。結末については明かしませんが、北海の庭にあった植木の白い花もポイントになっています。
この小説は、文章も読みやすく、テンポも良くて、北海や大介と共に旅をしているような感じがします。なぜ、文学賞の一つも取らなかったのか不思議なくらいです。それくらい良い作品だと思いました。
ふたば税理士法人 T.M.