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藤子・F・不二雄を思い出す

2020年06月24日

「ドラえもん」の作者、藤子・F・不二雄は、「パーマン」や「キテレツ大百科」など子ども向けの漫画家のイメージがあるが、大人の鑑賞にも耐える優れた短編を数多く残していることはあまり知られていない。

そんな作品の中でも、今から二十年以上前に読んだにも関わらず、いまだに折りに触れ思い出すひとつの短編がある。タイトルは確か「流血鬼」だった。

あらすじはこうだ。

誰かを噛むことで次々と流血鬼と化していく世界。流血鬼とは吸血鬼と同じようなもので、一見なんら普通の人間と変わらない。違いといえば太陽光が弱点となり、昼間の活動ができなくなる一方で、夜活動するようになる。主人公のまわりの大事な人たちも次々と流血鬼となってしまうなか、流血鬼ではないただ一人の人間として主人公は必死に抵抗する。そこに幼馴染の彼女がやってくる。主人公を説得しに来たのだ。彼女は言う。流血鬼になることは素晴らしいことだと。しかし主人公は頑なに拒む。果たして主人公の運命やいかに──。

といった内容だ。細かい部分は違うかもしれないがおおよそこんな話だったはずである。

先日、新型コロナウイルス接触確認アプリの配布がはじまった。すでに数百万のダウンロードがあったそうである。私も自分のスマホにインストールしてみた。アプリの画面を開くと、「本アプリを広めましょう」との文言が目に入る。確かにこのアプリ、みんなが使わないと意味がない。しかしいくらプライバシーが守られているとしても、なにか薄気味悪いものを感じている人も多いだろう。もちろん、インストールするしないは本人の自由だ。

一説によると、商品やサービスが一気に広まる普及率の分岐点は16%だそうである。つまり全体の16%の人が使うと、それ以降は雪崩のごとく一気に普及するというのだ。この理屈を用いると、接触確認アプリの分岐点は1,600万人だ。日本人のスマホの普及率はおおよそ80%とする統計がある。とすると、およそ1億人がスマホを持っていることになり、16%は1,600万人に相当するからだ。

さきほどの流血鬼の話は、結局主人公も彼女に噛まれ、流血鬼となるところでこの物語は終わる。最後に、今まで気づかなかった!こんなに闇がきれいだなんて!といった主人公のセリフで終わる。今まで必死に拒んでいたけど、いざその世界に入ってしまうと、その世界の美しさに気づいた、というオチである。

接触確認アプリをインストールするしないで、そこまで自分の世界が変わることはないけれど、周りがどんどんインストールする状況が生まれたら、きっとその人は流血鬼の主人公みたいな心境になるんだろうな、と思った。

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