ふたば便り

会社役員の退職慰労金支給の留意点

 退職金は通常の給与や賞与と比べて税金(所得税)が安い上に、税務上無制限には認められないものの比較的多額であっても会社の経費になるため、特に役員への退職金はその後の税務調査の際などにその支給時期や金額等が問題にされることがしばしばあります。そこで今月は、この役員退職慰労金についての税務上の留意点を見ていきましょう。

【退職所得に課税される税金】
 役員でも従業員でも、退職金は「退職所得」として扱われ、給与所得等とは分けて所得税が計算されます。計算に当たっては、勤続年数に応じて、以下の退職所得控除額(非課税額)があります。
 《退職所得控除額》勤続20年以下:40万円×勤続年数(最低80万円)
           勤続20年超:800万円+70万円×(勤続年数-20年)
 支給される退職金からこの退職所得控除額が差し引かれ、残額の2分の1が課税対象※となります。
 例えば勤続25年で退職金2,000万円の場合、
  退職所得控除額:1,150万円(800万円+70万円×5年)
  課税対象額:(2,000万円-1,150万円)÷2=425万円
この425万円に所得税・住民税等の税率をかけて計算すると合計税額は約86万円となりますが、2,000万円に対して86万円の税金ですから、他の所得に比べて大幅に優遇されていると言えます。

※なお、勤続年数5年以下の役員に対する退職金については、退職所得控除額差し引き後の2分の1ではなく、差し引き後の全額が課税対象となります。その他、例外規定もありますので、詳細はお問合せください(以下同様)。

 

【役員退職慰労金の支給の決め方】
 役員退職慰労金の支給は通常、株主総会の決議が必要であり、そうした手続を経ることが全額を会社の経費にする前提となりますが、その後の税務調査等で、在職期間や退職の事情、同業他社の支給状況等と照らして不相当に高額と判断された場合は、その金額の一部あるいは全部が経費にならないことがあります。一般的は、次の算式で計算される範囲内が税務上の適正な金額とされています。
  役員退職慰労金=最終報酬月額×勤続年数×平均功績倍率
 平均功績倍率は役職によって異なり、代表取締役社長の場合だと2.5~2.8倍程度が無難なラインと言われていて、場合によっては3倍やそれ以上が認められることもあるようです。

【分掌変更による退職金】
代表取締役社長は退任するけれど取締役会長として会社に残る、というような分掌変更による役員退職慰労金は、実質的に退職と同様と認められる場合には経費になります。実質的に退職と同様な状況とは、たとえば、①非常勤になること、②役員報酬の50%以上減額、③法人の経営上主要な地位を占めていないと認められること、という3つの要件が実務上はよく言われていることです。
 特に要件③を満たすことが重要で、そのためには取引先や、財務・人事権の引継ぎ等を後継者に行い、重要な意思決定には関わらないようにすることです。退任の形だけを整えても、実質的に経営に関与しているとみなされると、役員退職慰労金の経費性が否認される可能性があるので、ご注意ください。

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