名義預金と贈与税の制度見直し
将来の相続税対策として、生前贈与(生きている間にお子さんやお孫さんに財産をタダで与えること)は持っている財産を減らして相続税を抑えるという点で効果がありますが、やり方を間違うと贈与が認められず相続財産とみなされてしまう場合があります。今月は、そうした相続税対策の落とし穴とも言える名義預金や、令和5年度税制改正による贈与税の制度見直しなどについて見ていきましょう。
【名義預金とは】
「名義預金」とは、預金の名義人と実質的な預金の所有者が別人である場合の預金のことをいいます。特に、お金を贈与する際に直接現金で渡すのではなく、贈与される人名義の預金口座に入金している場合に、税務署から名義預金であると指摘されて問題になることがあります。
例えば、祖父が孫名義の預金口座に入金することで孫にお金を贈与しているような場合、この口座を「誰が」管理しているか、ということが重要になります。本来なら、口座名義人である孫自身がこの口座の通帳や印鑑、キャッシュカード等を持ち、自由にお金を引き出せるはずなのに、もしそれらを祖父が持っていて孫の自由にならなければ、その口座のお金はたとえ名義が孫であっても実質的には祖父の財産とみなされる可能性があります。また、孫の預金口座開設に使用した印鑑が祖父の預金口座にも使い回されていたり、孫には内緒で口座開設していてその口座の存在を孫自身が知らなかったりするような場合にも、やはり名義預金とみなされる可能性があります。
このように、後から名義預金として相続財産に加算されてしまう(贈与が無かったとみなされる)リスクを避けるため、例えば贈与契約書を作成し、財産をあげる側ともらう側の双方がそれを確認した上で記名(署名)押印して、贈与の事実を確認できる書面を残しておくことも有効と言えます。
【令和5年度税制改正による贈与税の制度見直し】
贈与税には、「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つの課税方法があり、原則的な課税方法である「暦年課税」の場合、1年間に受け取った財産の合計額から基礎控除額(110万円)を差し引いて計算します。一方、「相続時精算課税」は60歳以上の親や祖父母から20歳以上の子供や孫への贈与の場合に選択可能で、受け取った額の合計が特別控除額(2,500万円)までは贈与税が無税となる代わりに、相続が発生した時に、この方法で受け取った額を相続財産に合算するため、その合計額が相続税の非課税枠(基礎控除額)※1を超える場合には相続税が課税されることになります。
※1 基礎控除額 = 3,000万円+600万円×法定相続人の数。
暦年贈与によって生前に贈与を受けていた財産のうち、従来は相続開始直前3年間に贈与された財産は相続財産に加算されていましたが、これが令和5年度の税制改正により、令和6年1月1日以後の贈与分から、相続開始直前7年間に延長されることになりました。一方、相続時精算課税制度を選択して贈与を受けた人は、令和6年1月1日以後の贈与については、従来の2,500万円の特別控除額とは別枠で、年間110万円までの基礎控除を受けられることになり、また、相続発生後の相続税の計算において相続財産に加算される金額も、贈与財産の価格からこの基礎控除(贈与があった年1年当たり110万円)を差し引いた後の残額とされることになりました。このように、生前贈与については税制が大きく変わったため、相続税及び贈与税の有利不利の判定にはこれまで以上に注意が必要になりました。