ビジネスと少欲知足
前回は、欲を少なくしてこれで十分、という仏教の少欲知足の考え方を持つことが幸せになるためには大切という内容を紹介しましたが(「毎日楽しく」No.1号の再掲)、この考え方と、常に売上や利益を増やすことを目標とするビジネスとは一見相容れないようにも思えるため、今回はこれをどう考えればいいのかという内容をご紹介します。以下は2006年12月の「毎日楽しく」No.16号の一部です。
最近読んだ稲盛和夫氏(京セラ創業者)の本に次のような記述がありました。『利を求める心は事業や人間活動の原動力となるものです。ですから、だれしも儲けたいという「欲」はあってもいい。しかしその欲を利己の範囲にのみとどまらせてはなりません。人にもよかれという「大欲」をもって公益を図ること。その利他の精神がめぐりめぐって自分にも利をもたらし、またその利を大きく広げもするのです。』『たとえば会社だけ儲かればいいと考えるのではなく、取引先にも利益を上げてもらいたい、さらには消費者や株主、地域の利益にも貢献すべく経営を行う。また、個人よりも家族、家族より地域、地域より社会、さらには国や世界、地球や宇宙へと、利他の心を可能なかぎり広げ、高めていこうとする。すると、おのずとより広い視野をもつことができ、周囲のさまざまな事象について目配りができるようになってくる。そうなると、客観的な正しい判断ができるようになり、失敗も回避できるようになってくるのです。』
つまり、今の状態に満足すべきなのは自分たちの利益を図ることであって、一生懸命に仕事や商売をするのは自分や家族、会社のためではなく、もっと大きな視点から世のため人のために尽くすためだと考えるべきなのでしょう。それは結局自分たちを利することにもなりますが、それによって得た利益を自分たちのために使うことは「もうこれで十分」と考えて、残りはすべて社会に還元するということが大切なのでしょうね。
これを書いてからほぼ20年が経ち、地球温暖化への取り組みやSDGsといったことがさかんに言われるようになって、最近は稲盛さんが言っていた地球(や宇宙)のことまで考えてビジネスをする、ということが当たり前の世の中になってきました。自分たちのことだけを考えていると実現が難しい考え方ですが、自分自身の欲を抑えて、家族や一緒に働く仲間、取引先、社会全体を良くしていきたいという大欲を持って仕事をすることは、必ずしも少欲知足に反するものではないのかもしれませんね。