西俊輔の「毎日楽しく」

2014年12月号 Vol.112

私が参加している読書会で、先日、課題図書として選んだ本がロシアの作家トルストイの「イワン・イリッチの死」という本でした。

この読書会のメンバーには経営者の方が多く、課題図書にはビジネスに直接役立つビジネス書などを選ぶことが多いのですが、ごくたまにこうした文学書を選ぶことがありまして、この本もすごくおもしろい本でした。私は初めて読みました。

物語は、主人公の裁判官(イワン・イリッチ)が、ある不治の病にかかり、死にいたるまでの経過を主人公の肉体的な苦痛と精神的な苦痛や葛藤を細かく描写するという形ですすみます。

題材としてはすごくシンプルなんですが、そこはロシアを代表する文豪の作品ですから、多くの学びがあります。実際、ノルウェーのある団体が選んだ世界文学最高の100冊にも選ばれたことがある作品なんだそうです。

私が特に印象的だったのは、主人公に死がせまり、これまでの自分の人生において何が価値あることで、何が価値のないことだったかを回想する場面です。

主人公は裁判官としてそれなりの出世をとげ、ごく普通の庶民に比べれば裕福な生活をするいわゆる成功者とよべる人物でした。ところが、その成功のきっかけとなった法律学校に通いだしたころから自分の人生の「転落」が始まったと主人公は考えます。
社交界における人との付き合いやぜいたくな住宅やモノといった華やかな生活のすべてが、死を目前にした主人公にとってまったく無意味で、むしろ汚らわしいものだったと感じられてしまいます。

一方、自身が行った善行や純粋だった子供のころの生活はそれらとは逆に生命感に満ち溢れた光輝く記憶となり、真に意味のあるものだったと感じるようになります。

私たちの誰もがいずれは死を迎えるわけですが、死ぬ間際に自分の人生を振り返ることができたとすれば、はたして、自分の人生の中でどれだけの出来事が意味のなかったことで、逆に、価値ある人生という観点からみて重要な意味を持った出来事がどれだけあるのかということを、自分自身の身に置き換えて考えずにはいられない作品でした。

さて、今年もいよいよ12月となりました。年々、時間のたつのが早くなっているように感じる今日このごろですが、毎日を大切に、価値のある人生を過ごしたいものですね。

今年も皆様には大変お世話になりました。ありがとうございました。来年も皆様にとって良い一年になりますように。

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