西俊輔の「毎日楽しく」

2015年11月号 Vol.123

この「毎日楽しく」では過去、哲学を持った有名経営者の方々のお話しを何度もご紹介してますが、今月はこれまで書いたことのない経営者の言葉をご紹介したいと思います。カー用品大手のイエローハットを創業した鍵山秀三郎さんです。鍵山さんは自転車一台で始めた商売を東証一部上場企業にまで発展させた方で、その哲学に影響された経営者の方々も多く、ライフワークにもなっている「掃除」を推進する活動はいまや日本のみならず北京、台湾、ルーマニア、イタリアなど世界にまで広がっているそうです。

今年82歳になるという鍵山さんは、最初に就職した会社の労働環境が今なら考えられないくらいに過酷で、入社当初から理不尽なことを次々と命じられたといいます。ただ、この経験をとおして鍵山さんが学んだのは、人は成長を求めるならあえて厳しい道を選ばなければならないということだったそうです。「人間というものは、楽な環境に身を置いている間は決して成長せず、自分の能力をはるかに超えることを求められる環境に身を置いたときに初めて成長していくもの」という鍵山さんの言葉は、経営者に限らず、ふだん、仕事をしている人の多くが共感できる言葉ではないでしょうか。

昔から「苦労は買ってでもしろ」ということが言われてきましたが、まさにそういうことだと思います。そういえば以前、地球の成り立ちからこれまでの歴史を特集したテレビ番組で、地球上の生物が大きく進化したきっかけは地球全体が凍りつくような過酷な環境を経験したとき、ということをいってましたが、厳しい環境のときこそ生物は成長・進化するということがひょっとすると自然の摂理なのかもしれません。

またそうした厳しい環境での試練に耐えることは、宗教的苦行よりも価値があるということも鍵山さんはおっしゃっていますが、実はこの考え方はそもそも仏教の教えにあるそうです。滝にうたれたりといった厳しい修行よりも、日々経験する試練に耐える、あるいはいろいろなことを我慢するということ自体が、人を成長させる上で尊い修行になるということだそうです。

 

私たちは厳しい環境の中にいたり、さまざまなことに耐えなければならない環境にいることは日常的にありますが、それを、自分を成長させてくれる機会とポジティブにとらえることができるか、それとも、そこでくさってしまうかが、成長の分かれ目になりそうです。

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