西俊輔の「毎日楽しく」

2016年5月号(Vol.129)

「世界でいちばん貧しい大統領」と言われた前ウルグアイ大統領のホセ・ムヒカさんが先月日本に来て話題になってました。「世界でいちばん貧しい」というのはもちろんウルグアイのことではなく、国から支給される大統領としての給料のほとんどを寄付してしまい、豪華な大統領公邸にも住まず郊外の質素な家で暮らし、公務としての外遊もエコノミークラス、自家用車は他人からもらった中古のフォルクスワーゲンという、ムヒカさんの生活態度のことをあらわしており、公私にわたる清貧さが国民から大変愛された人です。ムヒカさんを世界的に有名にしたきっかけは2012年の国連での演説といわれています。

 

ムヒカさんはここで、「貧乏な人とは、少ししかモノをもっていない人ではなく、無限の欲があり、いくらあっても満足しない人のことだ」ということをいい、現代の行き過ぎた資本主義社会を痛烈に批判しました。別に石器時代に戻れと言っているのではなく、車やバイクのローンを払うために労働時間を増やし、気づけば人生が終わりに近づいているという生活をあらためて、愛情や人間関係を大切にし、子供を育て、友達を持ち、必要最低限のものを持って幸福に暮らすべきだということも言っています。社会の発展というのは人類の幸福を阻害するものであってはならず、人類に幸福をもたらすものでなくてはならないという同氏の発言は、特に日本をはじめとする先進国の人たちにとっては大変耳の痛い内容かもしれません。

 

ただ一方で、よりいいモノ、より便利な生活を求めるのは人間の本質と考えることもできるかもしれません。多くの人が求めたからこそこれほど資本主義は発展したのかもしれませんし、社会主義といわれる国ですら、部分的とはいえ資本主義を取り入れ始めたのかもしれません。世の中の大多数の人が無意識にこういう世の中を求めているのだとすれば、これを変えていくのはなかなか大変かもしれません。ただ、明治維新の功労者と言われた西郷隆盛がかつてこういうことを言っていたそうです。「命もいらず、名(名誉)もいらず、官位(地位)も金もいらぬ人は始末に困るものだ。しかし、この始末に困る人でなければ国家の大業は成しえない。」ムヒカさんはまさにこういう「始末に困る人」なんでしょうし、世のリーダーと言われる人たちが皆こういう資質を持てば世の中も変わっていくのかもしれませんね。私を含めリーダーには耳の痛い話かもしれませんが…。

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